【坂本昌行】舞台『凍える』感想

坂本昌行主演「凍える」感想 坂本昌行

※ネタバレしてます。

坂本さんの舞台『凍える』に行ってきた。
10/11(火)昼、10/18(火)昼の2公演。
2週連続行けたの幸せでしたねぇ。

観劇前からヘビーな内容であることは重々承知していたんだけど、いい意味で想定以上の重たさがあって見ごたえがあった作品。
なんて良質なお芝居を観ているんだろうと心が震えたよね。

坂本さんはもちろんのこと、長野里美さん、鈴木杏さんの凄みたるや。
実力しかない役者さん3人で織りなされるストーリーにグググっと飲み込まれました。

3人それぞれのモノローグからスタートして、なかなか全員が交わっていかないスタイルが新鮮でしたね。
それ故にか、自分だけに自分に向けて話されてるような錯覚に陥るのよ。それが余計に作品への没入感につながっていたように思う。

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坂本さんの登場、めっちゃ怖かったなぁ。
普段なら少なからずスタイルの良さとか立ち居振る舞いにキャッ♡となるけど、それが今回はゼロでしたね。
真っ黒のシルエットだけ浮かび上がった瞬間にゾワッとしたもん。
直前にナンシーによるローナの話があるからだと思うけど。
坂本さんのスタイルの良さが逆に怖さを引き立ててた気がします。

ただ2回目の観劇時は、初回ほど怖さを感じなかったのよね。
もちろん知ってたってのもあるけど、座席が違うからか真っ黒シルエットに見えなかったからね。
照明の当たり方、見え方の違いが出てるのかもしれない。
後ろの方(Q列)だった初回と前の方(E列)だった2回目だったら、前の方の席が真っ黒感は少なめだった気がするよ。
 
 
心の中の声なのか独り言なのかが分からないようなラルフのモノローグ。
あんな風に近づいちゃいけないヤバい人オーラが駄々洩れてる坂本さんは初めてでしたね。
どことなく虚ろで目の焦点が合ってないような、何考えてるのかよく分からないような、
お顔はやつれてるように見えるし服だってきっちりしてるようには見えないけど、清潔であることを何よりも重要視しているギャップもあり。
人となりが掴めない怖さがありまして…

ローナを見つけてからの執着の仕方と勘違い(思い込み)度合いもなかなか酷くて怖かったですねぇ。
「こんにちは~」しか言ってないのに。
それしか言わないから怖いのかな。あんな人に絡まれたら絶望するわ。
こんにちは、って返してくれるまで圧をかけ続けるうえ、返したら返したで「好意を持ってくれてる…!」って勘違いされるの、あまりにも恐ろしいんですけど!?
あんな虚ろな目で絡まれたら余計にね。

ローナの存在を足形の照明で表現してるのはとても良かった。
足が後ずさりしてたりその場から立ち去ろうとしてたりしてて、言ってしまえばそれだけの演出ではあるんだけど、あれがあるからローナの表情とか気持ちがくっきりと浮かび上がって見えし舞台上にローナを存在させることができたよね。自分の中で。
 
 
初っ端のアニータのちょっとおかしな精神状態と行動、その理由が分からなくて困惑していたけど、鈴木杏さんがとにかく迫真の演技だったから引き込まれたなぁ。
精神科医としてのパリッとした立ち居振る舞いとの違いに、いったい何を抱えているんだろうか…?と考えさせられてましたね。
理由が最後の最後に明かされるっていうのもなかなかニクいし。

専門用語多すぎて、あまりにもザ・学会って感じで、それもまた新鮮だったなぁ。
あんまり舞台作品でこういうテイストのものを見たことがなかったから。
台詞覚えるのも、まくし立てるのも、感情込めるのも、全部難しそうで役者さんって凄いなと思いました。
非常にハキハキした物言いだったから意外と聞き取りやすかったですね。
彼女の芯の強さが話し方とか態度に出ていて、だけど弱い面も垣間見えるところにものすごく人間味を感じた。葛藤してんだなぁ~って。

全てを知った状態で観劇した2回目はまた見方が変わって面白かったですね。
冒頭のアニータのおかしな状況も、なるほどなぁと思って観られたし。
事あるごとに、ちょっとした仕草の中に、彼女が抱えてたものが見え隠れしてたのよ。
あぁ、細かいお芝居だなぁなんて感心しちゃったね。(誰目線かしら😅笑)
 
 
ナンシーの語り口、どこにでもいそうなママそのもので親近感があった。
長野さんのちょっとめんどくさい母親感とても良き。

突然娘がいなくなってから、縋るように集会に参加して熱心に活動している姿は辛かったですね。
わずかな希望を胸に、一縷の望みに縋って、なんとか自分を奮い立たせようとしてるのが。

長女のイングリットとのすれ違いみたいなのも切なかったなぁ。
2人は気持ちの奮い立たせ方が違うから、お互いに理解できなくてしょうがないんだけど。

自分のことを見てくれてないように思えてしまうイングリットの気持ちがすごいよく分かる部分であり。
それでもお母さんのことは大切で心配で。何とか力になってあげようとしてる様子がナンシーのモノローグだけで手に取るように実感できるんだからすごいよなぁ。

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捕まってアニータと対話をするようになってからのラルフの変化がやっぱ印象的だった。

基本的には飄々としてて、特に初めの方は。つかみどころのない感じが連続殺人犯っぽさだったような気がするのよ。
けっこう強気な態度だったりもしたし?

それが徐々に殻が壊れていって、本音とか過去のトラウマとかいろんなものが見えてきて。
脆さみたいなものが垣間見えてからは、ラルフに対してもちょっとだけ情が生まれちゃったりしてさ。アニータも観てる私もね。

何とかしてラルフがラルフになった背景を明らかにしよう、過去の傷や経験を吐き出させようとするアニータだけど、だんだんそれも正しいことなのかどうかがよく分からなくて。

アニータに問われて幼い頃の話をしてるラルフ、ちょっと可愛らしいところもあったじゃん?
こんなお家だったー、とかさ。そういう純粋なぬくもりのある思い出だってあるはずなのに。

幼少期に受けた虐待の核心に迫ったときのラルフの取り乱し方を見ると、そんな無理に掘り返さなくてもいいじゃんとか思ってしまうのよね。
あまりにもツラい現実じゃん?
彼は彼なりに折り合いつけて何とかここまでやってきたわけだし。

とはいえそれで殺人やってるわけだから許されることではないし、殺人犯だからいろんなことを追求して真相とか原因をある程度明白にする必要があるのは分かるんだけどね。
なんかちょっと乱暴なような気がしないでもなかったり…。
でもやっぱナンシーたち被害者側に立てば、そんな風には思えないわけだし。

んん~、なんかめちゃくちゃ難しいよな…。

ナンシーの変化も見どころだったかな。
あれだけ憎んで恨んでたラルフを許して会いに行くだなんて、そんなの考えられないくらいの状態だったのに。
時間が考え方や心を変えることを目の当たりにした瞬間でもあったような。
周りのサポートによる部分が大きいのは確かだけど。

特に前を向こうとするエネルギーなんかは、イングリットの影響が大きいよね。
イングリットは誰よりも早く自分で折り合いつけて前を向こうとして、実際に前を向いて、妹のローナのことも母のナンシーのことも救ってあげてた。彼女の尽力には感服ですよ。
 
 
ナンシーとラルフが面会してからの怒涛の動き。
この面会でいろいろ大きく変わってしまったわけだけど、なんとも言えないよね。

ナンシーは言いたい事言えて、ラルフの反応を見られて、それで果たして救われたんだろうか…
ラルフは後悔とか罪悪感みたいなのを強烈に感じるようになって、それが何かしら影響して命を絶ったわけだけど、本当にそれで良かったのか…

どうするのが正しいかなんて答えはないけど、どうしたってそれで良かったの?ってモヤモヤが生まれてしまうのがなんかもどかしいというか。
誰かが救われても誰かは堕ちたり、誰も救われなかったり。
関係者全員が救われる方法なんてないんだなと実感して苦しくなっちゃった。

面会後の状況は苦しかったけど、面会中の2人の様子は意外と穏やかでクスっとできる雰囲気だったのがちょっと意外ですよね。
腹くくってるから、逆に落ち着いていられるのかなと思ったり。

ナンシーのタコの真似とか、思わず笑ってしまった。
結構お茶目なとこあるよね、てか本来そういう人だもんね。
冒頭のシーンで、ローナがパンダみたいな顔になっちゃった時に「笹の葉食べる?」みたいなニュアンスのこと言ってたりしたし。ユーモアがある。

割と素で対話できたのは、ナンシーにとって良いことだったのかな?分からないけど。
ただラルフにとっては、自分のお母さんを思い出したり幼少期に受けられなかった愛情を感じられる機会になったはずで。
それが良いようにも悪いようにも作用しちゃったから、この結末なんですよね。
ほんのひと時でも人の温かさを感じられたという点では良かったのかな?どうなんだろ??
ラルフにとっては何が幸せだったのかな…

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ラルフのお葬式か何からしきシーンでのアニータとナンシーの会話。
あそこがなんだかんだ一番好きかもなぁ。いろんなことを思えるから。

例えばラルフが命を絶ったのは、ナンシーが無理やり面会したからかもしれないこと。
もしそうだとしたら、それはナンシーにとって良いことなのか悪いことなのか。台詞でも言ってるけど。

彼を許したことで結果的に復讐が出来たのかもしれないし、彼を追い詰めるためにあえて許したフリをして会いに行ったのかもしれないし、本当に心の底から許してたから彼の死はショッキングだったのかもしれないし。

ナンシーの本心はたぶん私には一生分からないだろうし、ナンシー自身にもつかみきれないんだろうなと思う。
どれも本心かもしれないし、どれも本心じゃない可能性だってあるし。
ナンシーの気持ちをそう簡単に形容して理解することなんてたぶん無理なのよね。
たとえ同じような状況に遭った人であっても、考え方は違うわけだから理解は難しいんだろうと思いました。

ただ一つ、間違いないことがあって。
ローナがいなくなってからの数十年ずっと悲しんできて人生楽しめなかった、だからこれから先は笑ってやろう、って(ニュアンスの)言葉。
これだけは間違いなく事実だし心の底から信じられるものだなと思う。

事実、いい感じになってる男性との話をイングリットとしてるときのナンシー、久しぶりに生き生きしてたもん。よくある母娘の恋バナって感じ。
今まで苦しんだ分、楽しい気持ちを、幸せを感じて欲しいなと思った。
 
 
ラルフと向き合いながら、アニータ自身にも共同研究者について許したいこと、許されたいことがあって。
初めて打ち明けたのがナンシーっていうのがリアルだなと。
それほど親しくない人の方が言いやすいことって割とあると思うので。
ましてやその相手が、娘を殺した犯人に対して気持ちの折り合いをつけた強い人であればなおさら縋りたくもなるよね。

彼女がずっと主張していた
「悪意による犯罪が罪なら、疾病による犯罪は症状」

この言葉が最終的に自分に跳ね返ってきてるところに摂理を感じたりもします。
アニータのしたことは病気によるものじゃないから、罪として抱えて生きなければいけない。
誰かに打ち明けてどうすればいいか聞いたところで正解があるわけでもなく、自分でどうにかするしかない。

作品全体の軸でもあるこの台詞には考えさせられますね。

症状だったら許さなければいけないのか、そもそも許せるのか。
罪はすべて許されないことなのか、許される罪もあるのではないか。

分かりやすく線引きできる問題じゃないんだよね。
その都度その都度当事者たちが考える必要があって、答えは一つじゃなくて。

……人間の感情も行動も非常に難しい。

そして厄介なのは、人によって答えが違うこの問題は社会システムに直結してしまうことよね。何を許して許さないか、ある程度法律とかで決めないとなんでもありな世の中になってしまうから。
でもそう簡単に決められるものでもないってことはみんな分かってるのに。

……やっぱりもどかしいな。難しすぎる。
 
 
ラストシーンについてあともう一つ。
夕陽だと思ってた背景のオレンジ色、あれ火葬の炎っぽいですよね?2人の会話からするに。

焼かれるラルフを尻目にこれまでのこと、これからのことを語るナンシーとアニータ、っていう構図は凄いです。
何がどうとはうまく言えないけども。苦しいけどスッキリするみたいな…?感じなのかな…
一区切りついて前を向ける、っていうことの

で、このシーンが火葬によるオレンジだとすると、ラルフが命を絶ったときのオレンジ色にもなんか意味を見出したくなりまして。

あの時ラルフが見ていたオレンジの光も実は夕陽じゃなくて火葬の炎か何かで。
誰かの死がラルフを死に引き寄せてしまったんじゃないかとか。

これまで心が凍り付いていたラルフがやっと心を取り戻して、夕陽の綺麗さに気づいて心動かされて。
心、感情が人波に芽生えたからこそ自分の行いに罪の意識が強くなって死を選んでしまったのかもしれないとか。

いろいろ考えられる分答えが分からなくてもどかしくなっちゃうけど、それが人間ってものだなと改めて突きつけられた感じもある。
 
 
 
許すこと、許されること。
考えれば考えるほど難しいですね。

たぶん考え続けることが大事なのかな、とこの作品を通して思いました。

難解な内容だったからか、途中ついウトウトしてしまう瞬間があったのが申し訳ないですが、観劇できて良かった。
いろいろ思考を巡らせることができたので。
久しぶりにこんなに頭使ったなぁ~って良い疲労感があった。

3人のお芝居がとてつもなく良かった。
良質すぎてあっぷあっぷしてたわ。

特に坂本さん。
初めて見る坂本さんがそこにいて。いや、あれはラルフであって坂本さんではないんだけど。
こんな役柄も演じられるんだなぁと驚きと興奮で胸がいっぱいでした。

胸が痛くて苦しむシーンとか、辛い過去を告白してるシーンとか、苦しくて痛いっていうベクトルの表現にめちゃくちゃ引き込まれた。
息が止まるほどのめり込んでしまってね。
こんなすごいお芝居する人だったんだなぁと、改めて感動して誇らしくて大好きだなと思いました。新境地でした。

贅沢な2時間半だったな~。
坂本さんの重めなストレートプレイもなかなか好みだという発見ができて良かった!
 
 
 
……でもいくらお芝居とはいえ、好きな人が命を絶つ瞬間を見るのはしんどいものがありますね😅
1回目はともかく、展開分かってる2回目ですらあのシーンでは喉がヒュッと鳴ってしまうほどにはキツかった😅

次はハッピーな作品でお会いできるといいなぁなんて思ったり。笑
 
 
【2022/10/24】
なんと…!坂本さんがコロナに😭😭

https://www.johnny-associates.co.jp/news/info-653/

今日が東京千穐楽だったけれどもやむなく中止となってしまったのは悔しいだろうなぁ。

でもこればかりは坂本さん悪くないしさ。
早く完治することだけ考えてゆっくり休んでいただきたいですね。
どうも発熱しておられるみたいだし心配です。
お願いだから後遺症とか残らないでくれよ!!!
コロナめ!!!コノヤロッ!!!

【2022/10/31】
坂本さん復活!!良かった!!😭

くれぐれもお体には気をつけて舞台走り抜けてください…!

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